2014年11月10日月曜日

欧州サッカー特集⑧ ヴェンゲル体制は本当に限界か

こんにちは。欧州サッカー特集としては、久しぶりの記事になりますね。
さて、今回は近ごろ、賛成派と反対派できっぱりと別れることの多い、アーセナルのヴェンゲル政権の継続についてお話しします。

今シーズン、リーグ戦11試合を消化して未だに4勝と波に乗れない、勝ちきれない試合の多いアーセナル。プレミアのトロフィーをかけた争いでは、早くも首位チェルシーに差を開かれ黄色信号という状態だ。当然ヴェンゲルに向けられる声は日々厳しいものとなっており、毎年おなじみのヴェンゲル限界説が今回もささやかれている。

では本当にヴェンゲル政権は18年の歴史を数える今、限界に来ているのか。非常に難しい問題だが、今回ばかりは私も限界に来ていると感じる部分がある。その部分を分析していく。

1.相変わらず怪我人の数が多い

毎シーズンアーセナルを苦しめるもの、それは度重なる怪我。今シーズンに入ってから、すでにジルー、モンレアル、サノゴ、ドゥビュシー、アルテタ、ラムジー、コシェルニー、エジル、オスピナなどの主力選手が怪我で離脱し、ジルー、ドゥビュシー、エジルに関しては長期の離脱となっている。ワールドカップの影響もあり、ベストコンディションで開幕を迎えられたわけではないが、それでも他チームに比べて離脱者の数があまりにも多すぎる。この原因は何であろうか。もちろん不幸な怪我というものもあるが、アーセナルの場合、多くは疲労からくる怪我と考えられる。ヴェンゲルという監督は、選手のローテーションをあまり好まず、常にベストメンバーで戦おうとする。


・メスト・エジルから見るヴェンゲルの選手起用

13/14シーズン、夏の移籍市場の最終日にアーセナルに加入したメスト・エジル。チーム加入直後は圧倒的なパフォーマンスでチームの前半戦の躍進に大きく貢献。しかし、中盤以降はハムストリングの怪我による長期離脱などもあり、移籍金に見合った活躍ができたとは言い難いシーズンとなった。不調、そして怪我の原因として挙げられるのが疲労だ。アーセナルに加入する前のシーズン、ジョゼ・モウリーニョの元でレアル・マドリーの一員としてプレーしていたエジルと、アーセナルに加入した後のエジルのリーグ戦での出場時間を見るとよく分かる。

    12/13シーズン 
32試合出場
合計出場時間:2022分 
    一試合平均:約63.2分

13/14シーズン 
26試合出場 
合計出場時間:2139分 
   一試合平均:約82.3分

なんと、アーセナル加入後のエジルはレアル・マドリー時代に比べ、出場試合数としては6試合も少ないのにも関わらず、合計出場時間は117分も増加しているのだ。一試合平均の出場時間も20分近く増加しており、疲労が溜まりやすくなるのも当然と言える。さらに、スペインに比べイングランドはウィンターブレイクが無いなどの理由で過密日程になり、その中でこのような起用をしていたことになる。


ジョゼ・モウリーニョという監督は、選手のフィジカルケアにかなり気を遣う。今まで数々のトロフィーを手にしてきた要因の一つとしてこのケアが挙げられる。対してヴェンゲルはどうだろうか。これだけ見ると選手のケアが万全とは言えないのではないだろうか。エジルだけでなく、数多くの選手に対するフィジカル的なケアが不十分と言わざるを得ない。ローテーションを適切に使っていく能力、この辺りがヴェンゲルが長い監督生活を過ごしている中で未だに未熟な部分である。選手層の問題もあるかもしれないが、では何故層が薄いポジション、ここ数シーズンで言えばCF、DMF、CB、RSBを補強しないのか。ここにも疑問が生まれてくる。

今シーズンもまた同じ過ちを繰り返している。果たしてヴェンゲルはこの状況を変える気があるのだろうか。フォーサイスという優秀なフィジカルコーチを加入させたところで、監督が選手のケアを怠っているのでは意味がない。



2.試合に柔軟性が見られない

これも昔からの問題。前述の通り、ヴェンゲルはローテーションをあまり好まない監督なので、どんなチームが相手でもスターティングメンバーがまったく同じということがよくある。ただ、これで本当にいいのだろうか? というのも、例えばチャンピオンズリーグでボルシア・ドルトムントと戦った直後の週末にQPRとの試合が控えているとする。当然チームの実力的にはドルトムントの方が上なので、こちらによりベストなメンバーを組むのが妥当で、QPR戦は疲労回復の意味も込め、控えのメンバーを使うなど工夫をするのが普通だ。でもアーセナルの場合、この2試合ともベストメンバーを組み試合に臨むなんてことが日常茶飯事。控え選手を使うのには、疲労回復以外にも、例えばディフェンスラインを極端に下げて守ってくるチームへの有効な対策にもなる。確かに連携面ではベストメンバーを組んだ方がいいのだろうが、相手に見合った選手を選択することも重要だ。

柔軟性という面では、試合中にも問題があるといえる。アーセナルといえば、ボールをポゼッションしながらゴール前をショートパスやワン・ツーで崩していく魅力的なスタイルだが、常にこれではすぐに相手に対策されてしまう。特に今シーズンはこの傾向が顕著で、ゴール前まで来ているのにシュートを打たず相手にボールを取られてしまうチグハグな攻撃が目立つ。サンチェスの個人技や前線からのプレッシングに頼らざるをえない現状、ゴール前での戦術的オプションをもう一つ二つ増やしてもいいのではないだろうか。当然これだけの怪我人を抱えている以上、厳しいものがあるのかもしれないが。ちなみに、2列目の選手による流動的なポジションチェンジはかなり魅惑的だ。アーセナルならではといえる。

交代選手の起用は昔より幾分か上手くなったイメージがある。時々ある3枚替えは中々に面白いと思う。が、割と先発メンバーを粘り強く起用する傾向が未だに強い。今季もカソルラとチェンバレンをもう少し早く交代させていたら...と思うことが何度かある。


3.補強方針

「なぜ守備的な選手を獲らない」。これはここ数年グーナーが感じ、口に出す言葉だ。事実である。アーセナルの弱点はどちらかといえば守備にあるにも関わらず、今でも攻撃的な選手に対し多くの投資を行っている。もちろんヴェンゲルの目指す攻撃的サッカーを体現するにはエジルやサンチェスといった、1人で観衆を沸かせることができるプレイヤーが必要なのかもしれない。しかし、そのような攻撃も、安定した守備があってこそではないか。ここ数年の守備的な選手の補強というと、メルテザッカー、アルテタ、モンレアル、フラミニ、チェンバース、ドゥビュシーといったあたりが主だが、小粒感が否めないのも事実だ。お気づきだろうが、この中にCBを本職とする選手はメルテザッカーただ1人である。エジルやサンチェスの獲得に要した金額より安い2500万£ぐらいをCBの選手獲得に充ててみれば、かなりのレベルの選手が獲得できるはずだ。アーセナルはエミレーツスタジアム建設の借金返済を目前に控え、さらに、プーマやエミレーツ航空との大型スポンサー契約により、今となっては他のビッグクラブにも引けを取らない「お金持ちクラブ」だ。そんなクラブ、否、ヴェンゲルが守備補強に大型資金を投入する日は来るだろうか。あまり容易には想像できないシーンだが。守備補強をしっかりしていれば、ここ数年悩まされている「ビッグゲームでの弱さ」が解消されるかもしれない。



結論

アーセナルのヴェンゲル体制は極めて危険な状態にあるのは事実である。既に明らかになっている問題がここ数年改善の兆しを見せない現実を見ると、新しい風を吹き込むことも選択肢の一つとして考えることも賢明かもしれない。とはいえ、マンチェスター・ユナイテッドのように、長期政権を築いた監督が職務を終えると、チームが下降していくリスクもある。アーセナルの場合、ヴェンゲルが監督に就任して以降、ずっとチャンピオンズリーグ圏内をキープしている。これが収入源でもあるので逃した場合のリスクは計り知れない。もちろんヴェンゲルがこれを逃した場合は今までで最大の「Wenger Out」のコールが起こるだろう。

ヴェンゲル政権は持ってあと2年以内、と私は見ている。次期監督だが、個人的にはペップ・グアルディオラを推す。グーナーの中にはアレルギー反応を見せる人も多いと思うが、彼は監督として率いたチームを、常にヨーロッパフットボール界の最先端に持っていく。一つのコンセプトにとらわれることなく、バイエルンではバルセロナ時代とは一味違うサッカーで魅了している。むしろ彼のレベルにないとアーセナルを常にトップレベルのクラブに居座らせるのは大変難しい。

私もアーセナル、ヴェンゲルのサッカーに魅了されてグーナーになった一人だ。ヴェンゲルは人間性も他のクラブの監督に比べ素晴らしいものを持っている、模範的な人物だ。そんなセンセーショナルなレジェンドがアーセナルの監督を退く時には当然悲しむことだろう。だがその時は着々とその時は近づいている。私はヴェンゲルがエミレーツスタジアムのテクニカルエリアからベンチコートをまとって指示を送る姿を、これからはしっかり噛みしめて見ていきたい。このフランス人がアーセナルを去る時の悲しみを最小限に抑えるために。

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